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福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)120号 決定 1959年10月13日

抗告人 秋山滝蔵

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由の要旨は「抗告人は福岡地方裁判所小倉支部昭和三三年(ワ)第八三九号配当表異議事件について同裁判所裁判官から訴状の被告の表示を補正すべきことを命ぜられたので、訴状に被告として表示した井本競治を西日本相互銀行と補正し、昭和三四年五月一八日同裁判所に訴状を提出した。この事件は昭和三四年(ワ)第二九七号事件としてその口頭弁論期日を昭和三四年七月九日と指定された。それ故右第八三九号事件は第二九七号事件の第一審判決があるまでこれを保留するのが当然である。しかるに原審裁判官が第八三九号事件について本件訴状却下命令をしたのは違法である」というのである。

よつて審案するに、記録によれば抗告人は昭和三三年一二月一九日井本競治を被告として原裁判所に本件配当異議の訴(昭和三三年(ワ)第八三九号事件)を提起したが、原審裁判官は右井本競治が訴提起前たる昭和三二年五月二四日死亡したことが判明したので、昭和三四年五月九日原告たる抗告人に対し訴状の被告の表示を補正すべき旨の補正命令をなし、次で同年六月八日抗告人が補正期間内に補正しなかつたことを理由として本件訴状却下命令をしたことが認められる。しかし記録によると抗告人は右補正命令のなされる以前、すなわち昭和三四年三月一九日訴状に被告を井本競治と記載したのは錯誤によるものであるとして、被告を株式会社西日本相互銀行と訂正しかつその営業所及び代表取締役の氏名住所を表示した訴状訂正申立書をその副本及び訴状の副本とともに原裁判所に提出したことが明らかである。この訴状訂正申立書は、井本競治を被告とする従前の訴に西日本相互銀行を被告とする新訴を追加的に併合提起すると同時に従前の訴を取下ぐる趣旨と解するのが相当であるから、従前の訴は取下によつて終了したものといわなければならない。しかるに原審裁判官がすでに終了した従前の訴について訴状の補正を命じかつ補正しないことを理由として本件訴状却下命令をしたのは失当であるが、それは畢竟無用の命令であつて、そのため特に抗告人の利益が害せられるものではないから、これを違法とする本件抗告は正当の利益を欠ぐものである(抗告人の主張する昭和三四年(ワ)第二九七号事件と前記併合提起にかかる新訴は各別に提起された同一の事件のようであるが、もしそうだとすれば二重起訴の関係になるが、それは本件抗告とは別個の問題である。)

よつて本件抗告は却下すべきものと認め抗告費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)

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